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Na-Thought

フィクションでもノンフィクションでもいいのです

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初恋「川田君への恋」

「男前」というのは何故、器用で、運動神経が良くて、打順も3番で、地域では有名な先発ピッチャーで、他校の野球部員の噂になったりして、同級生はもちろん、先輩後輩みんなに人気者で、なるべくしてエースというポジションにつくのだろうか。

神様は不公平で、天はニ物を与え過ぎだ。

 

冴えない海野君なんてずっと補欠のベンチ警備員だ。決まったポジションももらえず、監督の都合よく割り振られる外野手なのに。練習試合でたまに代打で出陣するも、フルカウントからのボール球空振りスリーアウト。もしくは引っかけてボテボテゲッツー常習犯。川田君の「ニ物」を1つくらい海野君に分けてあげてもいいくらいだ。

でも僻むことも無く「俺は野球好きだぜ」とひたむきに練習を頑張る海野君はすごい。

 

 

今日はあっちこっちに飛んでいくボールを拾いならが遠目に部員を眺めそんな事を考えている。私にとって野球部のマネージャーの仕事は暇つぶしだ。

 

うちの野球部は強豪でもなく、簡単に言えば弱小チームだ。

部員の数もそんなに多くなく、一学年10人前後である。

 

特に入りたい部活も無く、たまたま先輩部員からマネージャーに誘われたのがきっかけで、「マネージャーとか、青春じゃない?」みたいな感じで決めた入部。特に高校野球が好きだったとかそういうのでもなく、ルールも良く分からずに入部した。

「部員達と揺るがない絆を作り一緒に甲子園を目指すの」

「献身的に部員達をサポートしたい、そして、結果につなげたいの」

そんな事微塵も考えたことは無い。こんな事言ったら、他校のマネージャーに怒られそうだけども。

 

お茶を作れば「ありがとう」と言ってもらえる。ボール拾いをすれば「ありがとう」と言ってもらえる。頼まれ事をこなせば「ありがとう」と言ってもらえる。

気が付けば必要とされている気がしたから続けている。あとは「川田君がかっこいいから毎日眺めるのが楽しい」という不純な理由で毎日部活に顔を出しているだけだ。

 

 

 

ピッチャーの川田君と、ショートの佐羽内はいつも仲が良い。

男の子同士って恋バナなどはするのかな。今日は二人が話している所を見るたびにそんなことばかり考えてしまう。

 

 

私はいつも本部席付近の給湯部屋で部員のお茶を作ったり、汚れたユニフォームの洗濯、こぼれ球のボール拾いなどをする。たまに負傷した部員の手当てやケアをする。

 

1年生の春、入部したばかりの頃、同じく入部したばかりの坊主頭の集団がまだ外野の草むしりやボール磨きばかりの毎日を送っている中、川田君だけはブルペンで3年生のベテランキャッチャーと投球練習していて、監督も川田君の投球を見てニコニコしていた。その時「ああ、あの子は上手なんだ。だから他の子と別扱いなんだ」と単純に感じ、彼に特別を感じるようになった。よく見れば整ったキレイな顔立ちでスタイルも良い。どんどん彼を見る事が楽しみになってきて、毎日彼を見るのが日課になった。

 

「見るのが日課」から「彼と目を合わすのが日課」に変わり、「目が合ったら私から目を逸らすのが日課」、「逸らしてもう一度目を合わすのが日課」…なんていう感じで興味の無い相手にとっては「一体何なんだ?」と感じても仕方ない様な行動を日々楽しむようになった。

思った以上に目が合うようになってきた頃、私は彼と目を合わす事に夢中になっていて彼を見ると興味と好奇心でドキドキした。

 

その私の視線に気付いたのは里菜っちだった。

「亜子っち、ねぇ、川田君ってさ、亜子っちの事LOVEなんじゃない?」

いつものちょっと活舌の悪い話し方で、私の「もしかしたら」の核心を突くような一言を言い放った里菜っち。

「ええ、そんな事ないよ。」

「気のせいだよ」と話を濁そうとしたけれど、私は聞きたかった言葉を聞きたくて里菜っちに「里菜っちなんでそう思ったの?」と尋ねた。

 

「だって亜子っちの事、いつも見てるじゃん!」

里菜っちは私が欲しい言葉を返してくれた。周りから見て彼が私の事を頻繁に見ているという事は、私の只の思い込みでは無いって事なんだな、とそう感じた。なんだかとても気持ちよくて、ドキドキと鼓動が早くなるのを感じた。頬が熱く感じたのは、初夏の陽射しのせいだったか。

 

「まんざらでもないんだ、顔が赤いけど、亜子っち、川田君の事好きなんだね!」

もしかしたら里菜っちの巧みな話術に嵌められたのかもしれない。

この時、私は自分のこの気持ちの高ぶりを「川田君への恋」へと位置付けた。

今までの妙なモヤモヤ全てがフワフワと、美化されていった。

 

正直ほどんど話した事も無く、出会って数ヶ月も経たない頃、「よく目が合う相手への片思い」が始まった。そんな恋の始まりだった。

「そうか、私は川田君が好きなんだ。」そう考えるようになってからの毎日は楽しかった。川田君を見つめる行為、川田君の事を考える時間、川田君とすれ違う瞬間、全てが「川田君が好き」と結びつける事で行動に意味を感じてしまいワクワクした。

 

この片思いは私の心の中でひっそり育ち、どんどん膨らんでいく。

歯止めが効かず、止められない、だって妄想だから。想像の中で彼との恋愛を思い描いていただけだから。何も邪魔するものも無かった。

 

数ヶ月後、そう、去年の今頃の事、私にとって一大事件が起きた。