Na-Thought

フィクションでもノンフィクションでもいいのです

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初恋「ギャル先輩」

「ええ、それって佐羽内君、亜子っちの事LOVEなんじゃない?!」
  
 こう言い放ったのは通称「ギャル先輩」の里菜っちだ。
 里菜っちはお世辞にも美人とは言えないが、ここ近年大ブレイクしている「浜崎あゆみ」を崇拝し、心から「ギャル」に憧れている高校3年生。重たげな一重瞼に専用接着剤を塗りながら必要以上に大きな声で言った。
  
「ちょっと声が大きいよ、里菜っち。」
  
  

 


  
 里菜っちは、茶髪にミニスカ、タボタボのルーズソックスに細眉という今時女子高校生。活舌が悪くて、ちょっと頭が悪そうな喋り方が特徴だ。ただ、こんな見てくれだけれど頑張り屋の野球部の先輩マネージャーで、いつも私を妹の様に可愛がってくれる。
  
「っていうか、里菜っち、アイプチくらい家でやっておいでよ」
  
 朝、ゆっくり登校してくると、野球部マネージャー用更衣室でギャルメイクを仕上げるのが里菜っちの日課で、そこであれこれたわいない会話を楽しむのが私の日課だ。
  
 里菜っち達3年生はこの夏で野球部を引退した。地区大会2回戦敗退という地味な結果だったけど、最後の試合の後、まだギャルでは無かった頃の里菜っちは化粧がとれて目の周りを真っ黒にしながらおんおん泣いていて、それがとにかく可愛かったのをまだよく覚えている。
  
 その後の里菜っちは「ギャル化」が高速に進み、今ではもはや量産型ギャルだ。違う高校の知らない子とつるんだり、知らない男の人達と過ごす時間も増えたようで、最近煙草も吸いはじめた。
 私に対する態度は何も変わらなかったし、里菜っちが楽しそうならそれでよかったから特に気にも留めていないし、「煙草はダメだよ」なんていうつもりもない。
  
 それに、「お利口さん」で生きてきた平和ボケした自分にとって、里菜っちの「崩れ方」はどこか格好良く思えて、「悪い事」に憧れる気持ちがあったのも正直な所。
  
  
  
 今日もいつものように冗談を言い合い、恋バナをして笑いあってるのが心地いい。
  
  
 里菜っちは、同学年の野球部員の事が好きだ。多分今も。
 私が入部した時から言ってるから、もう2年近く片思いをしてる。
  
 顔が「不二家」の「ペコちゃん」に似ている事から、彼の事を「ぺこ」なんて呼んで、いつも楽しそうに恋バナをする里菜っち。私から見たら「マルコメ」だけれども。
  


 今から半年以上前になるが、今年のバレンタインデーは一緒に手作りのチョコを作ったっけ。部活の後に渡そうと部室近くで一緒に待ち伏せをした。川田君はこちらの気配に薄々気付いていたのか、ちらりちらりとこちらを気に掛けるそぶりを見せていた。
  

 

 結論からいえば、結局私はチョコを渡す事ができず終わった。

 足が前に進まなかった。石のように固まってしまって。
 もしくは、足の裏の強烈な接着剤のせいで地面とくっついてしまったのではないかと思うくらい。なので、私は、逃げた。後ろ向きには足は自由に動いてしまった。

 私からチョコをもらって川田君は嬉しいのか?
 興味が無い人からもらうチョコなんて気持ち悪くないか?
 そもそも、受けとってもらう事すらできないのでは?
 野球部員達に広まって笑いものになるのでは?

 勝手に理由を付けて、川田君のせいにして。
「かっこ悪い所を見られるのでは?」「弱みを見せる事になるのでは?」と、結局「好き」という気持ちに「自己保身」という概念が割り込んできて、自尊心が勝った。「不安だけれども、それでもぶつかって想いを伝える事」が出来ない意志弱い自分と直面した。中途半端な好きの重さだ。
 私はきっと少女漫画のヒロインにはなれないんだと痛感してしまった。
  
 川田君の気持ちがまったく見えない事が恐怖だった。
 自分に対して好意を持っているとは限らないから。
 むしろ、嫌悪感を持たれているかもしれない。
 だから一切何も無いかのように装われている可能性だってある。

  「惨めな思いはしたくない」という自己保身から私は一人更衣室に逃げ戻った。傷つかない為の保身だったのに、逃げ出した自分を思うとつくづく惨めな気分となった。
  
 しばらくして戻ってきた里菜っちに、チョコを渡せなかった事を言うと里菜っちは「はぁ?バカじゃん」と笑った。その声色に違和感を感じて振り向くと、里菜っちの手は震え、その手にはラッピングされた袋がぐしゃりと握られていた。

 

「ぺこ、ゴメンだって、ほんとウケる」
 里菜っちの声は微かに震えて、無理して笑った。

 

 里菜っちは頑張ってきたんだ。「ぺこ」にチョコを渡そうとしたんだ。
 里菜っちは、私が怖くて逃げ出した場所に行ってきたんだ。
 それでも、勇気を出してぶつかってきたんだ。
 里菜っちの「好き」はきっと本物の「好き」なんだ。 すごい。
  
 部活が終わったのは夜7時。真っ暗な誰もいない校内の中で更衣室だけポツンと電気がついていて、私達は自分達で作ったチョコを一緒に食べてから帰った。